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RGBモニタにおける平面色と距離感表現

RGBモニタでは非現実的なものである平面色をたやすく表現できてしまうが、少なくとも平面色とは何で、何がどう非現実的かを知っておこう。

現在発売中の web creaters 12月号(目次)『巻頭特集 最新WEB配色トレンド2010』 の中で、黄色に関する記事を寄稿させて頂きました。17色もの色について特徴やそれぞれの配色、事例など、読みごたえのあるものになっています。

記事のフォローという訳ではありませんが、今回の執筆をする中で平面色について改めて考えるきっかけとなったのでまとめてみます。RGBモニタで閲覧されるものをデザインをする人であれば、1つの知識として認識しておきたい要素ではないかと思います。

平面色とは何か

平面色(面色、film color)の言葉の意味としては

  • 奥行きの次元で明瞭な位置を持たない
  • テクスチャーや不等質性を欠いており、完全に均質に現れる

といったような定義がなされます。「完全に均質に現れる」というのが特に分かりやすい言葉で、近い遠い、まっすぐ斜め、明るい暗いなど関係なく、ある色が一面で完全に均質に現れるということを意味します。

平面色は架空のもの

現実世界で、私たちの目に入ってくる物は目と対象物の距離によって色は変わる、つまり距離感があります。

例えば、大きなポスターの一面を、高性能な印刷機で隅から隅まで完全に同じ黄色に塗りつぶしたとしても、実物を目の前に置いてみれば目とポスター上のある1点の距離によって、黄色は微妙に変化します。真正面は本来の黄色だとしても、隅の方では少し暗い黄色だったり、明るい黄色だったり。

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逆説的になりますが、平面色は自然の摂理として現実的ではない、非現実的であるということが言えます。非現実的というのはあり得ないという意味ではなく、観察者が空間性を把握するための距離情報を持たないために結果として「非現実的な印象を持つ」ということになります。

具体的な事例

写真家の石川直樹氏は、熱気球での太平洋横断に試みた際の記録である著書「最後の冒険家」の中で、高度5000フィートの上空での体験をこのように描写しています。

青空は、見上げるとそこにあるものだと思っていたが、ここでは上を見ても下を見ても青しかない。近景も遠景もなく、広角レンズも望遠レンズも役に立たない、遠近感のない青である。色の中に入ってしまったかのような喪失感、あるいは圧倒的なまでの一体感があった。

これはまさに目の前全てが平面色となった状態ではないかと思います。

少し違うかもしれないけれど、ドラゴンボールの精神と時の部屋(真っ白で、特定の照明があるわけでなくどこまでも均一に明るく続く不思議な部屋)における「精神」とはこの非現実性に耐えられるかどうかではないでしょうか。漫画の中の話ですが、もし精神と時の部屋が実在したら、通常の人はやがて船酔い状態になり、酩酊し、あるいは発狂してしまうのではないかと思います。

RGBモニタと平面色

特殊な環境下でしか実現しないはずの平面色ですが、RGBモニタでは簡単に表現できてしまいます。特別な方法もなにもなく、画面いっぱいに広げたキャンパスを一色で塗りつぶせばよいだけです。
モニタは自然光の影響を無視できる照度で発光しているため、その色はほぼ完全に均質の状態で目に入ってくるのです。

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もちろん家庭用パソコンのモニタはそれほど大きくないため、モニタで平面色を再現したからといって人は酔わないし、それが非現実的だとすら感じないでしょう。
しかし結果的に見る人に与える印象としてデジタルな感じ、バーチャルな感じ、を感じさせる要因になっていると思います。

まとめ

結論としてベタ塗りが良くない、グラデーションが良い、という訳ではありません。

現実的な質感を出すためにグラデーション、テクスチャ、シャドウを用いて画面内のものが実存しているような親しみのある雰囲気を出す場合もあれば、わざとそういった処理を排除し、ゲーム的、バーチャル、非日常、アート、といったキーワードの雰囲気を作っていく場合もあります。またあえてそれらを混在させ、(異素材の切り返しでデザインされたおしゃれなバッグのように)面白い雰囲気を作っていくテクニックもあります。

「なんとなくデジタルっぽいから塗りつぶす」「なんとなく立体感が欲しいからグラデーションを付ける」ということではなく、平面色と人間の関係やRGBモニタの特性を理解し、それを意図的に操るかどうかは、モニタ上でのデジタルデザインの最終的な完成度に大きく影響するのではないかと思います。

ゲームは主に3Dソフトで立体表現がシミュレーションされていくのに対し、WEBデザインでは2Dのキャンバスに手動でグラデーションをつけていくことになりますが、そのためには現実の光の当たり方や反射に対する物理的な知識、観察力が不可欠になります。
それは結果として昨今のWEBデザインの1つの評価とされる「リッチな表現」「パースペクティブの変化」「リアリスティックな表現」に繋がっていくと思います。

豆知識

反対にRGBモニタで表現するのが難しいのが「蛍光色」を使った平面です。
街の広告や注意喚起サインに蛍光色が使われるのは、周辺の環境光に影響されにくいからだそうです。光っている(ように感じる)という意味ではパソコンモニタと同じ原理だということに気付きます。

参考

色の基礎知識として書かれた本は多くありますが、コンピュータ上での表現を含めて書かれたものはまだ少ないようです。矢野りんさんの本『デザインする技術』では、平面色についても取り上げられていて、今回参考にさせて頂きました。

Posted on 2009/11/10DESIGN

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